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感覚

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 もし風に色がついていたらとは誰でも一度は考えたことだろうが、朝から走り抜ける風を感じて、目に見えないものでも分かる人間の感覚を考えた。すぐさまピアニストの辻井伸行さんが脳裏に浮かび上がってきたのだが、アメリカとドイツの聴衆の違いをテレビで仰っていたことを思い出し、技術もさることながら、風もないホールでの僅かな空気の揺れさえも感じてしまうその鋭敏な感覚があるからこそ、聴衆を魅了する素晴らしい演奏ができるのだろうと身勝手に思ったりした。
 明らかに僕の視覚は衰えている。そうは言っても、ただ遠くと近くの小さいものが見え難くなったに過ぎないのだけれど、聴覚についても加齢と共に高い周波の音が聴こえなくなるということを知った。嗅覚については、別に困ったこともない程度だし、味覚はしょっぱい甘いが判るくらいで、どれが美味いかなんて判らないが不味いは判る。嫌いなものは不味いし、不味いものは嫌い、ただ、それだけだけれど。
 いつのことだったか、異なる演奏家の同じバイオリンの曲のCDを聴き比べて驚いたことがある。それは技術の違いなのか、あるいは録音の良し悪しか、それとも感覚か。その感覚も、演奏家の感覚なのか聴く側の僕の感覚なのか。
 どうにも当てにはならない感覚だけれども、頼りにしなくてはならない感覚でもある。先日、口元のご飯粒を、うっー、んっー、と連れに手真似で指摘されてぬぐったのだが、どうやら左右が違ったらしくまた、んっー、と念を押されるように睨まれた。だらしがないのか口元の感覚が鈍っているのか、そういうお前だってソースが付いてるぞ、と言うのはやめた。

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