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手紙

Fh000106

 礼状を書くのに久し振りに筆を持った。パソコンで打つことに慣れてしまったせいか、漢字が思うように書けない。ぼんやりとした輪郭だけは浮かんでくるが、その先へ進まない。パソコンで打ったものを清書し直そうかと考えたが、ただ意味もなく駄目になってしまう気がして辞書を片手にした。たった葉書一枚を書くのにどれだけ手間取ったことだろう。やっと書き終えた葉書の拙い文字を見て更に情けなくなった。メールではあまりに失礼だろうから、いっそ電話で済まして破り捨ててしまおうかと躊躇う。机の上に放り投げて重く垂れこめた空をぼんやりと見つめながら、ああ、そういえば手紙を書いたのはいつだったろうかと思う。そして、手紙を貰ったのはいつのことだったろうと。
 捨てられない手紙の束がある。仕事で知り合えた今は亡き方からのもだが大切にとってある。戦後の日本復興のために尽力なさりながら三十年以上も巴里に居を構え、帰国してからも精力的に活動なさった方で、手元には数十通が残っている。何しろ筆まめであった。お世辞にも達筆とは言えない、それどころか読むのにも慣れが必要なくらいの字である。しかし、横殴りに書かれた内容は筆鋒鋭く迫ってきた。そして最後には必ずサインがしてあるのだが、それが実に格好良い。あの方を未だに忘れられないのは、世話になったからばかりではなく、手書きの手紙が残っていることも大きい。
 僕は長年、日記をつけていた。この数年、ブログを始めてから書いていない。そう言えば、手紙を書かなくなったのもその頃からだったような気がする。もう一度、書く習慣を身に着けようかと思う。

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